さちの心の中には誰かがいる。
私はそう感じていた・・・。
*再会side美貴*
中里さちと知り合ったのは大学に入ってから。
ほわんとした子で、ほんとにかわいい。
はっきりとした性格の私に、気を悪くすることもなく、私たちはすぐに打ち解けた。
さちは彼氏が欲しいという。
でも、それに深い意味はないと思う。
ただ、憧れているのだ。彼氏という響きに。
さちほどかわいい子はいないと思う。
現に、同じ学部の何人かの男子に誘われたりしている。
でも、さちにとってそれは、単なる友達同士の誘いとしか、考えていない。
それ以前に男子と話すこと自体が苦手なようだ。
気づかないから彼氏ができない。
誘うだけでは、気づいてもらえないと分かって、告白した人もいるようだ。
それでもさちは断ったらしい。
さちさえ、その気になれば彼氏なんてすぐにできるのだ。
私は、さちに断った理由を聞いた。
その理由を聞いているうちに、さちが告白してきた男子と誰かを比べているように感じた。
雰囲気が違う、話していても落ち着かない、etc・・・
誰か好きな人がいるのかと聞いても、いないと答える。
でも確かに、さちの心に住んでいる人がいる。
それが誰だか気になって、さちと中学が一緒だったという友達に聞いてみた。
さちは高校は女子高だったから中学時代の同級生だろうという当たりをつけて。
私の勘は当たった。
その子の話を聞くと、さちは今よりもさらにおとなしい性格で、2,3人の仲のいい友達と一緒にいることが多かったという。
でも、一人だけさちと仲良く話す男の子がいたのだそうだ。
名前は、深山勇輝。
とてもやさしい雰囲気を持ち、その雰囲気と違わぬ性格の持ち主だったそうだ。
最初に声をかけたのが、彼のほうだったというから、おそらくさちに好意を抱いていたに違いない。
ふたりの間に流れる空気から、想い会っていることは周りから見れば明らかだったのに、彼が、さちに告白することはなく、ふたりが付き合うことはなかった。
そして、そのまま卒業を迎えてしまった。
『そのまま、一度も会ってないんじゃないかしら。』
同窓会の幹事もやったその子がいうに、彼が来られたときに、さちの都合が付かず、さちが来られたときに、彼が来られず、というような状況だったらしい。
話の最後に、その子は驚くべき情報をもたらしてくれた。
「深山くんですか?」
私は学食の窓際の席に座っている男の子に問いかけた。
「はい、そうですが・・。」
彼が答えるが、その声はどこか不審げだ。
それはそうだろう、いきなり学部の違う知らない女に声をかけられたのだから。
「私は、真山美貴って言います。さっきあの子にあなたの事を聞いて・・」
そういって学食の入り口のほうを見る。
話を聞かせてくれた彼女が、そこでちょこっと手をあげた。
それで彼は納得したが、まだ腑に落ちない顔をしている。
「私は、中里さちの友達です。」
彼の顔が驚きに変わった。
話を聞かせてくれた子が、もたらした情報は、彼、深山くんが同じ大学に通っているというものだった。
理学部だという。
私たちは文学部で同じ敷地には立っていても校舎が別なので二つの学部が交わることは数少ない。
ましてや文系と理系だ。
文系同士、理系同士であれば、授業で一緒になることもあるが、違うのではまったくない。
今まで気づかなかったのも道理だ。
偶然にも私の彼が、理学部に通っている。
その関係で、私は何度か足を運んだことがあるが、顔を知らない。
それに、まさかこんな近くにいるとは思わないではないか。
「いま、ちょうどお昼だから、学食にいるかもしれないよ。」
そう言われて、彼女に案内してもらい、現在のこの状況がある。
「そっか。中里さんの友達なんだ。」
彼がつぶやく。
「えっと真山さん?君がここにいるってことは、中里も同じ大学だったんだ。」
「ええ、私たちは文学部なの。」
「中里は元気?」
「元気にやってるわ。友達も結構いるし。」
「そっか、よかった。ところで今日は何か用かな?」
さちの名前を聞いたときの表情とこの会話だけで、彼がさちのことを覚えていただけでなく、いまでも気にかけていることが、見て取れた。
いまも、いきなり来てしまったのに邪険にすることなく、私に付き合ってくれている。
彼の人当たりの良さがわかる。
「彼女とさちの話をしていたら、あなたの話が出てきたものだから気になって。聞いたら同じ大学だって言うじゃない。
それで会いに来たってわけ。ごめんなさい、聞いてそのまま来てしまったから、さちをつれて来れなくて・・。」
さちを連れてくる気などなかったが、そういっておいたほうがいいだろう。
「いや、いいよ。同じ大学だって分かっただけでも驚きなんだから。」
「そうね。いまさらだけど、時間大丈夫かしら?」
「あはは。ほんとにいまさらだ。大丈夫、次の講義は休みだから。」
「ありがとう。」
「あれ、美貴!どうしたんだ?勇輝も。」
私の彼が来た。
「うん、ちょっとね。健斗、深山くんと知り合い?」
「知り合いも何も俺たち友達だし。そっちこそ知り合いだったっけ?」
「友達!?そんなの聞いてないよ!」
「健斗の自慢の彼女って、真山さんだったんだ。」
「ちょっと!勇輝!美貴に惚れたとか言わないでよ?俺の彼女だかんね!」
「はいはい、心配いらないって。あとで説明するから。それより、健斗、そんなに教科書もって、次授業じゃないの?」
「うわっ!もう始まるし!じゃ、俺行くけど、後でちゃんと説明しろよ。美貴!」
走りながら言い残していった。
「真山さんが、健斗の彼女か〜。何か意外?」
「よく言われるわ。そっちこそ、健斗と友達だったなんて、一度も会ったことないじゃない。」
そうなのだ。私は健斗と一緒に彼がいるのを見たことがない。
「うん。学校ではあんまり話さないから。サークルが一緒でよく飲みに行くんだ。健斗、そういうところに君を連れてこないから。」
「確かに、私、健斗と飲み会に行ったことないわ。・・・でもこれでちょっと楽になるわね。」
「なにが?」
「ううん。こっちの話。」
もし彼の気持ちが、まださちにあるのなら・・・。
私の中に1つの計画が浮かび上がっていた。
計画の遂行は彼の気持ちしだいだ。
まずはそれを確かめなくては・・・。
キーンコーン カーンコーン
授業の終わりを告げるベルが鳴った。
「じゃあ、今日はこの辺で。付き合ってくれてありがとう。」
私は、お礼を言うと席を立った。
健斗のおかげで打ち解けた私たちは、よく話した。
内容はほとんどがさちのことだったけど。
意識的にそうした。
この様子だと・・・。
それから健斗をだしに何回か深山くんと会って話した。
そして、私は確信する。
深山くんはさちが今でも好きだ。
しかし、次の行動を起こすためには彼の決定的な一言が必要だ。
深山くんが、この先、さちとどうなりたいか。
私は思い切って聞いた。
「ねえ、こんなこと聞くのもあれなんだけど・・・深山くん、さちのこと好き?」
「え?」
深山くんは少し、うろたえた様子を見せたが、私の目が真剣だと気づいて答えてくれた。
少し照れながら。
「うん。おれは中里のことが好きだよ。」
「それで、さちと付き合いたい?」
「・・できれば」
よしっ これで確認は取れた。
「じゃあ、私が協力してあげる。」
そして、私の立てた計画を彼に伝えたのだ。
少し驚いたような顔をしていたが、彼は了承してくれた。
さあ、さち。
覚悟しておきなさい。