Aschenputtel und Ein Magier



その屋敷には、シンデレラという名の女の子が住んでいる。

「シンデレラ、これも洗っておいて頂戴。」
高飛車な声が、彼女に命令を下す。

あの日から、彼女の生活は変わってしまった。
彼女のやさしかった母が亡くなって、継母とふたりの義理の姉がやってきた日から。

シンデレラは美しい。それこそ義理の姉たちなんて比べ物にもならないほど。
シンデレラはどんなにきついことを言われようと、文句の一つも言うことなく、よく働く。
ああ、なぜ彼女がそんな目に合わなければならないのだろうか。

彼女がいつも眠るのは、灰がくすぶる暖炉の前。ぼくの部屋から良く見える。
今日はお城で舞踏会があるらしい。いつもより幾分か機嫌のよさそうな継母の声がここまで響いてきた。
「お母様、私も連れて行ってくださいな。」
彼女も舞踏会には興味があるのだろうか。
「ダメダメ、お前なんて連れて行ったら、こっちまで恥をかいてしまうよ。」
そう言うと継母と義姉たちは、いそいそと出かけてしまった。

ポタリ

彼女の目からしずくが一つ、こぼれ落ちる。
彼女が泣いている・・・。



「舞踏会に行かせてやろう。」
ぼくが鳴らしたチャイムの音に、泣きはらした目をこすりながら出てきた彼女にぼくは言う。

ぼくは彼女に魔法をかけた。

なんと美しいのだろう。
純粋で、賢くて、やさしくて。彼女はなんと美しいのだろう。

今日の舞踏会は王子の花嫁を選ぶらしい。
彼女なら間違いなく、王子の目に留まるだろう。
そうして、幸せになれるのだ。

ぼくがこの手で着飾らせたシンデレラ。
君の幸せのためならば、ぼくは君の背中を押そう。
この胸の張り裂けそうな痛みにも、耐えて見せよう。

「さあ、王子様と幸せにおなり。」


「どうして?」
彼女の鈴のような声が耳に響く。
「どうして、そんなこと言うの・・・?」
彼女の声は震えていた。今にもこぼれそうなほどの涙がその透きとおった目に溜まっていた。
「約束、したよね?」
彼女の言葉に記憶がよみがえる。
ああ、もちろん覚えているよ。それが本当だったら、どんなにぼくは幸せだろうか。


まだ幼かったあの日。
彼女と彼女のやさしい母とぼくと。
三人で行った花畑。
ぼくは必死に編んだシロツメクサの冠を彼女の頭にかぶせると、
「大きくなったらぼくと結婚してください!」
とそう言った。
「うんっ!」
と彼女はあどけない笑顔でそれを受け取った。
彼女の母は、その様子を微笑みながら見つめていた。


「わたし、それを支えに今まで頑張ってきたのに・・・。他の人のところへ行けというの?」
まさか・・!でも、だとしたら・・・。ぼくは彼女と一緒にいてもいいのだろうか。
ぼくがこの手で幸せに出来るのだろうか?
だけど・・今のぼくでは自信を持って『幸せにする』とは言えないから、
「シンデレラ。もう少し、待っていてくれないか?ぼくはきっと王宮付魔導師になるから。そしたら、シンデレラ、君を必ず迎えにくるよ。」
「はい。」
二度目の約束。彼女はあの日見た笑顔で笑った。


3年後。
王宮付魔導師になった年若く将来有望な青年は、王がじきじきに選んだ娘たちを断り、向かいの屋敷の幼馴染を手に入れた。
輝くように美しく、気品あふれる娘だったそうだ。



                                     END





モドル 

 
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