その日。 いつものように蓮に会いに行くために細道を訪れた唯那は、その場所に立て札があることに気付いた。 (あれ?こないだ来た時にはなかったのに。) 漠然とした不安が、唯那の胸に広がった。そこに書かれている文字を目で追う。 「う・そ・・っ!」 読み終え、頭が内容を理解していくと同時に唯那の顔から血の気が引いていった。 青ざめた顔の唯那が、何かとても焦った様子で、健太のもとへとんできた。 その時健太は部活中であったが、蓮のもとへ行ったと思っていた唯那が、血相を変えて健太を呼んだので、 先輩達に断りを入れてから唯那のもとへ駆け寄った。 「どうかしたのか?」 という健太の問いにも、 「とにかく一緒に来て!」 と言うだけで、はっきりしなかった。 ただ唯那がとても焦っていることは健太にもわかった。 健太は先輩に早退する旨を告げ、唯那の様子に何かを感じていた先輩達も健太に早く行くよう促した。 唯那に連れて行かれた先はあの細道だった。 「これっ!見て!」 唯那が示したものを見て、健太は愕然とした。 道路および区画整理に伴う工事について 着工日 XXXX年○○月△△日 社および周家の取り壊し、道路整備を行います。 危険ですので、工事の間は近づかないようお願いします。 「これは・・・。」健太は呆然とつぶやく。 「ねえ、これって、蓮の居場所が無くなっちゃうってことだよね・・?」 不安げに唯那が言う。 その言葉に健太ははっとした。 「ああ、・・たぶんそういうことになると思う。」 痛ましげな表情を浮かべ、健太は唯那の言を肯定する。 「蓮は、知ってるのかな?!」 おそらく蓮は知っていた。 でなければ、あんな意味深なことは言わなかっただろう・・・。 『あと少しだけ』などと。 知っていたからこそ、あんなに必死で、だからこそ『あと少し』だったのだ。 限られた時間を唯那と過ごすために。 「きっと知っていたよ・・。」 健太はそう言って唯那に寂しげに微笑む。 その表情を見て、唯那は理解した。 蓮は知っていた。そして、健太も知っていた。 健太がいつ知ったのかといえば、それはあの日の二人の会話。 唯那には決して教えてくれなかった、あのときの話だ。 「もう、・・駄目・・なんだよね?どうにもならないんだよね・・?」 唯那たちはもう高校生だ。何も分からない子供ではない。 一度こうして掲示してしまった行政の判断を、それも期限が1週間後に迫っている工事を止めることなど出来ない。 それも、たかが高校生の言い分だ。そんなものが通るわけがない。 「とにかくっ、唯那、早く行ってこい!一人で平気か?」 「う、ん・・・!」 今にも泣き出しそうな唯那に健太は今、なすべきことを示す。 蓮のもとへ駆け出す唯那の背中を見ながら、健太は後悔の念を抱く。 あの日の帰り、「あと少し」という言葉が気になったのではなかったか。 それにより、唯那が傷付かなければいいがと。 なぜ、もっと深く考えようとしなかったのだろう。 守ろうと思ったのに、唯那の心を。 ただ、こんな形で事実を知ることになった唯那の心の痛みを思うことしか、健太には出来なかった・・。 工事の開始は一週間後。あと、一週間だ・・・。 |