放課後、唯那はひとり、あの細道へ向かった。
やはり周囲に人影は無かった。
神の坐す所だから、なにかの力が働いているのかもしれないと、唯那は思った。

足を踏み入れると、あの唄が聞こえた。
それに続く問い。
唯那はもう、その声が守犬であるコマとマコだと知っていたので、
「こんにちは。唯那です。」
と、自分の訪問を告げた。

瞬間ざっと視界が変わる。
唯那はうれしそうなコマとマコに迎えられていた。


正直、不安だったのだ。
夢だったのではないかと。
そうでなければ、まやかしだったのではないかと。
現実ではとても信じられないようなことだったのだ。
自分が違う世界に入ってしまったことが。
だが、今日また唯那はこの世界に迎えられた。
これは現実なのだ。


「唯那さんをお連れしました。」
唯那は蓮の元まで案内された。
「こんにちは。」
そう挨拶して、唯那は蓮を見た。
何かに打たれたような表情をしていた。
それはすぐ見えなくなったが、唯那は不安になった。
来てしまってはいけなかったのだろうか、蓮には歓迎されていないのではないか。
唯那の顔が曇ったのが分かったのか蓮は言う。

「やあ、唯那。よく来てくれましたね。」

その言葉にほっとする。
よかった。
嫌われてはいないみたい。
自分で思っている以上にほっとしていた。
蓮に嫌われるのはとても怖かった。
それは、蓮が神だから、その怒りを畏れてとかそういうことじゃない。
蓮に嫌われたくなかった。




それからというもの、唯那は週に一度は必ず、多いときは4,5日、蓮のところへ通うようになった。
おしゃべりをして帰るだけ。
それだけのことなのに楽しくて、うれしくて。
そうして楽しいときが終わり、帰るのはとても怖いのだ。
楽しく、うれしく思えば思うほど、帰りが辛い。
それに拍車を掛けるのは、寂しそうな蓮の顔。
だけど、唯那は帰らなければならない。

どうしても自分の世界へ帰らなければならないのだ。


自覚の無いまま唯那の心は囚われる。
この不思議な世界に。

―――蓮という存在に・・・。



楽しいときが終わるのは早い。
唯那は通う。一瞬も無駄にはできないとでもいう様に。
ただひたすら、唯那は、蓮に、逢いに行く。

時が限られていることを唯那は、・・・知らない。
いつかは終わりが来ることを。





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