+紫の浴衣+ 前編
そろそろ新しい浴衣がほしいかな。
デパートの着物屋には新作の浴衣がずらりと並べられている。
紫陽花、菖蒲、蝶・・・。
柄も色も様々だ。
ほしいな〜。
でもお金ないしな。
とりあえず今日は見るだけ見るだけ。
何色がいいかな〜。
最近は黒が人気ってどっかで聞いた気がする。
あ、この色いいかも。
私の目に一つの浴衣が飛び込んできた。
結構濃い紫の地に菖蒲の花が描かれている。
うわぁ どうしよう。
ホントに気に入っちゃった!
でも、値段が結構高め。
私って、一回気に入っちゃうとほかのが見れなくなっちゃうんだよね。
うーん あとでお母さんにでもたかろうか。
厳いな〜。
お母さんに聞いてみたけどあえなく撃沈。
お小遣だけじゃ厳しいよ〜。
もう売れちゃったかな?
そう思いながら店を覗いてみる。
あ、まだある。
やっぱりきれい。
ほしいよ〜
よし、決めた!バイトしよう。
そして、私は短期のバイトを始めた。
毎日仕事があるけど、すべてはあの浴衣のため。
そう思うと頑張れる気がした。
仕事の帰りに売れてないか確認するのが、日課になった。
(あ、今日も来てる)
最近毎日店の前に来る子がいる。
どうやら浴衣を見に来ているらしい。
でも買わない。
見ているだけだ。
お小遣だけじゃちょっと厳しいかもな。
彼女が気に入っているのは紫の菖蒲の柄のやつだ。
あれは生地が手染めでしてあるから他のものより値が張る。
毎日目に入ってくる彼女を見ていて気付いたこと。
彼女はまっすぐなきれいな髪をしている。
肌も白い。
あの紫の浴衣は彼女によく似合うだろう。
着ているところを見てみたい。
たとえおれが見られなくてもあの浴衣は彼女の手元にあるべきだ。
そう思ったおれはあることを思い付いた。
「店長、この浴衣おれが買ってもいいですか?」
「お前が女物の浴衣買ってどうする?ん、ああ、あの子か。何だお前、あの子に気があるのか?」
「そんなんじゃないですよ。だた、やっぱり似合う人に着てほしいじゃないですか。」
「まあ確かにな。」
とか言いながらそうかそうか、かわいいからな〜やっと春が来たか何て言っている。
違うって言ってんのに。
まったく。
お金も貯まったし、今日買っちゃおうかな〜。
そんなことを考えながらいつものように店にいった。
あれ?あの浴衣がない!
もしかして売れちゃった?
うわ〜ショックだ〜。
私はとても落ち込んだ。
「お客様、お探しのものはこちらでしょうか?」
店員さんが声をかけて来た。
手元にはあの紫の浴衣が。
あ、あったー!
「はい、それです!それです!」
私はそういいながらぶんぶんと首をふる。
「はは、いつも熱心にご覧になられてましたから。」
見られてた!?
買わないくせに毎日来たりして迷惑だったろうか。
それより何故店員さんがそれを持っているのだ?
やはり売れた後だったのか。
自分の考えに再び落ち込んだ。
あ〜せっかく買えると思ったのに〜。
そんな私に店員さんはとんでもないことを言ってのけた。
「では、これはお持ち帰りください。」
そういっていつのまに入れたのか、お店の紙袋に入れられた浴衣を差し出す。
思わず店員さんの顔を見た。
そうしてから今初めて顔を見たことに気付く。
ドキン
心臓が一つ大きく脈を打つ。
だって、すごく優しい顔で笑ってるんだもの。
営業スマイル?
それにしては・・・。
「もって帰らなくていいんですか?」
店員さんの一言で我にかえる。
が、いまいち現実が飲み込めない。
「えっと、それはただで私にくれるという意味で?」
「ええ、そうです。」
な、なんで?悪徳商法?
「騙してます?」「いいえ」
違うようだ。
「あなたに着ていただけたら浴衣もうれしいかと。」
だから、くれるの?
いや、くれるのだったらうれしいけど、もとの値段を知ってる身としてははい、そうですかというわけにはいかない。
「あの、ちゃんと払います!」
「うーん、でもこれおれが買ってあるから。」
は!?
買ってある!
つまりこの店員さんが私にくれるというのか?
ますます疑問は積もるばかりだ。
でも、ほんとにただで貰うのは気が引ける。
「じゃあ、半分払います!」
「はは、じゃそれて゛。」
こうして私は本来の半分の値段で、浴衣を手に入れた。
後編へ続きます!夏祭りです。たぶん・・・。