崩壊する童話5題  お題配布元「確かに恋だった」様

1.M気質のシンデレラ 「Mじゃない、変態だ!!」

「シンデレラっ!!洗濯をしておくように言ったじゃない!」
「ああ、お義母様。ごめんなさい。こんな私にどうかお仕置きを!」
「ほんと、使えない子!」「灰の中がお似合いよ?」
「ええ、お義姉さま方の美しさには遠く及ばないこの私をどうぞ罵って下さい!!」

シンデレラは今日も幸せである。








2.白雪姫はりんごアレルギー 「りんごなんて食べられないわ!」

「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは誰かしら?」
「この世で一番美しいのは、この城の王女様、白雪姫様です。」
後妻として、王国へ嫁いだ王妃の自慢は自身の美貌でありました。彼女の日課は自身のもつ魔法の鏡で自身の美しさを確認することです。
彼女の嫁ぎ先には先妻の忘れ形見の義理の娘がおりました。娘は健やかに成長し、年頃の娘となりました。
この日も、いつものように王妃は鏡に問いかけました。しかし、あろうことか鏡は白雪姫の名を答えたのです。
白雪姫は王妃の眼から見ても、とても美しい娘であったため、王妃のプライドは深く深く傷ついたのです。
王妃は考えました。白雪姫さえいなければ、と。

(有名な物語なので中略)

りんご売りに変装した王妃は毒を塗ったりんごを持って、白雪姫の元を訪れました。
「りんごは、いらんかね?」
「ごめんなさい、りんご売りさん。わたし、りんごアレルギーなの!」
この時、王妃は思い出したのです。白雪姫の食卓に一度もりんごがのったことがなかったことを。

本当の悲劇のヒロインは、継母に殺されかけた白雪姫でしょうか、それとも白雪姫のアレルギーを知らされていなかった王妃でしょうか。
兎にも角にも今日も白雪姫は七人の小人たちと元気に暮らしているようです。







3.低血圧の眠り姫 「私を起こしたの誰よっ!!」

長く子供に恵まれなかったお妃様に待望のお姫様がお生まれになりました。

(有名な物語なので中略)

そうして、お姫様と城の者たちは長い長い眠りについたのです。
百年もの月日が過ぎたある日、茨で覆われた城の前を一人の若者が訪れました。
城にまつわる話を聞いた若者は、そのお姫様を助けてやりたいと考えたのです。
お城の中の一番高い部屋で、お姫様は眠っていました。
若者はそっとくちづけを落としました。
「ん……」
お姫様はうっすらと眼を開きます。
「あなた……」
カッとお姫様の眼が見開きました。
ほっとした次の瞬間、ものすごい衝撃が若者を襲いました。そうして若者は訳も分からずに意識を失ったのです。
若者のおなかには、何かに蹴られた後がはっきりと残されておりました。
こうして、自身の睡眠を邪魔した者をさっさと始末したお姫様は、再び心地よい眠りに就いたのでした。


―――   茨の城にはたいそう美しいお姫様が眠っているよ

命が惜しくば、彼女を起こしてはいけないよ

それはそれは恐ろしいことが起きるらしいさ   ―――



 




4.赤ずきんお使い放棄 「私、忙しいのっ!」

ある村に、とても可愛らしい赤いずきんを被った女の子がおりました。
その赤いずきんがとても良く似合っていましたので、女の子はみんなから「赤ずきん」と呼ばれていました。
しかし、外見の可愛らしさと裏腹に、赤ずきんはたいそう我がままな性格をしておりました。

赤ずきんのおばあさんは森の中の一軒家に住んでいます。
あるとき、赤ずきんのお母さんは赤ずきんにお使いを頼みました。
「最近、おばあさんの具合が良くないらしいの。赤ずきん、これをおばあさんの所まで持っていって元気付けてきてくれないかしら?」
「いやよ。」
その日、赤ずきんは村の子たちと遊ぶ約束がありましたので、そんな用事にかまっている暇は、これっぽっちもないのです。
赤ずきんにとって大切なのは自分を可愛がってくれるおばあさんではなく、自分自身です。

こうして、赤ずきんはお使いに行くことはなく、おばあさんが狼に食べられることも、
狼が殺されることもなかったのです。
それはとても良かったことなのですが……。
「ああ……!私の育て方が悪かったのかしら……。」
と、赤ずきんの母親の悩みは尽きることがないのでした。

 


 




5.魔法が使える人魚姫 「すべての者が、私を愛しているのよ。」

海の底にある王宮には魚人の王様と美しい人魚のお姫様たちが暮らしておりました。
中でも美しかったのが末の姫でした。海の生き物たちすべてが彼女をこぞって称賛しました。
それを聞きながら育った人魚姫は、自分を愛さない者はいないと思うようになったのです。

年頃になった人魚姫は、海の外の世界に強い関心を抱くようになりました。
人魚の世界では成人すると海上へ出ることが許されます。次々と成人し、外の世界を見てくる姉たちの言葉はとても魅力的でした。
ようやく成人の儀を迎えた人魚姫は、はやる気持ちを抑えて海上へ向かいました。
「まあ!!」
初めて見る景色に心が躍ります。
空を飛び交う鳥たちも波間から顔を出した人魚姫に称賛の言葉を贈りました。
「あれは何かしら……?」
それは豪華な船でした。
人魚姫にはそれが何か分かりませんでしたが、そこから聞こえる澄んだ歌声に心惹かれたのです。
しかし、そのとき大きな嵐がその船を襲ったのです。
荒れ狂う波をかき分け、人魚姫はその声の主を岸へと運びました……。

その時から、人魚姫の心の中はその人のことで一杯になりました。
彼は海の上の人間の国の王子でした。
人魚姫は人間になり、王子の元へ行きたいと思うようになったのです。
ところで、この海の王と人魚の姫たちは魔法を使うことが出来ました。
この海で魔法が使えるのは彼らと深海の森に棲む大蛸の魔女だけでした。
その中でも人魚姫の魔法は優れておりました。
大蛸の魔女は物知りです。人魚姫はこの魔女の所へ相談に行きました。
薄暗い海の底、海藻の生い茂る中を幾多の魚たちのなれの果てが転がっています。
そんな場所に魔女はおりました。
「魔女さん、魔女さん。私は王子様の元へ行きたいのです。どうしたらよいのでしょう?」
「魔法で人間の足を手に入れるのだ。」
魔女は言いました。
「その代わりに、お前の美しい声を私に……って、もういないのかよっ!」

人魚姫は自らの尾を足へと変えました。もちろん声はそのままです。
そうして海の上へ、王子の元へ旅立ちました。

王子の元へ辿り着いた人魚姫は、王子に愛を求めました。
しかし、王子は人魚姫には一向に興味を示しませんでした。
あまりに高飛車で、我儘な人魚姫にどうして惹かれることがあるでしょう。
一方、人魚姫はこの世に自分を愛さない者がいることが、信じられませんでした。
美しい声で歌っても、軽やかなダンスを踊っても王子の心は掴めないのです。

人魚姫は王子に魔法を掛けました。人魚姫を愛するすばらしい魔法です。


王子は毎日、人魚姫へ愛を囁くようになりました。
「ああ、人魚姫。愛している。」
ただただ、同じ愛の言葉を囁くようになったのです。
しかし、それを聞く、人魚姫は満足そうに微笑むのでした。

さて、それが本当に幸せな生活であったのかは誰も知る者はおりません。







モドル







 

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