――エピローグ




初めて唯那に逢ったとき、なんだか消えてしまいそうだと思った。
だから、俺が守ってあげなくちゃって思ったんだ。いや、守るって誓ったんだ。
そのときはまだ、唯那の身に何が起きているのか知らなかった。
事実を知ったとき、俺は嫉妬した。
だから、無理やり一緒について行った。

だけど・・・そこにあったのは、温かな世界。
それを知るまで俺の敵だった天神・蓮は俺に言った。

「唯那をこちらの世界に引き込むつもりはありません。私の力の限り、全力で帰しますから・・・だから、どうか唯那との逢瀬を。いまひと時の逢瀬を、許して下さい。」

俺が「もう行くな」と言ったときの唯那の泣きそうな顔。蓮と一緒にいるときの満面の笑顔。
仕方ない。守ってやるよ。その笑顔・・・。守るって誓ったんだからな。
あのことが起きるまで、俺はふたりを見守った。

蓮は言った。
「いまひと時の逢瀬」と。
蓮はいつから知っていたのだろうか。自分の社が壊されるということを。

高校生の身分でしかない俺たちに、それを止める術はなかった・・・。

そして、あの工事の日。
蓮に「来るな」と言われても、唯那はそこに行こうとするだろうと思った。
俺がどんなに止めても唯那が自分の意思を貫き通すだろうことは予想が出来た。
それならば、唯那に悔いが残らない様にしてやることしか俺には出来ない。
社が、あちらが崩壊してしまったら、もうこちらに戻ることは出来ないだろう。
そしてたぶん、あちらでも生きてはいけない。
蓮に聞いたわけではない。唯那から聞いたわけでもない。
だけど、俺にはわかっていた。
頑ななまでに唯那を来させまいとする蓮の態度がそれを物語っていた。
蓮が望むのは唯那の生。
だから、

「俺も一緒に行くよ」

俺も行く。
蓮の望みを叶えるために。
そして、俺自身のために。
これだけは譲れない。

必ず唯那を連れて帰る!

・・・・・・。








「健太!早く!こっち。」
どこかに駆けていったと思った唯那が俺を呼ぶ。
唯那のいる場所。
細い道。細道。
そう俺たちは暇を見つけては、探していた。
かの人がいる地を。

唯那のもとまでたどり着く。
それは、あの道に良く似た道だった。
【細道】があった。

――――。

風に乗り、かすかな音が鼓膜を揺すった気がした。
空耳か?

「健太っ、いま!」
唯那にも聞こえたようだ。
「うん、絶対そうだよ!」
うれしそうに唯那が微笑んだ。

「蓮、久しぶり〜!」
何も無い空間に向けて挨拶を言う唯那の、左手の薬指に光る指輪を眩しげに俺は見つめた。







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